毎年3月ごろに、前年度の調査結果として能力開発基本調査(厚労省)が公表されます。最新の調査は2010年度調査(調査の対象は前年度に実施した能力開発の取組状況、他の年度の調査も同じ)です。今回、過去3年間(2007〜2009年度)において、企業が正社員に対して行った能力開発の取組み状況を検証してみたいと思います。次回は、社員の自己啓発等の取組みについても検証していきます。
OFF-JT1人当たりの平均額は2009年度は1.3万円で前年と同じです。2006年度が2.3万円、2007年度が2.5万円と上昇しましたが、リーマンショック後、低下しました。金銭的な余裕がなくなったことがわかります。一方、自己啓発支援の1人当たりの平均額は0.4万円で前年と同じです。2006,2007年が0.8万円ですから、こちらも同様の理由で低下したと考えられます。
企業が従業員に対する能力開発の方針として、選抜重視(選抜した労働者の能力を高める教育方針を重視)か全体重視(労働者全体の能力を高める教育方針を重視)の方針をとっていたかについては、この3年間でガラリと傾向が変わりました。2007年度は選抜重視が59.5%であったのに対し、全体重視は40.4%でした。それが2008年度、2009年度と選抜重視が46.5%まで低下し、全体重視が53.5%まで上昇しました。2010年度(2011年度調査)の結果が公表されないと断言できませんが、選抜して効率よくハイパフォーマーを育成することから、全体的な職業能力の向上を目指すように、緩やかに軌道修正されていると考えられます。組織全体で成果を出すには、全体的に職業能力を向上させた方が効果的と判断したように思えます。
教育訓練の方法としてはOJTとOFF-JTがありますが、このどちらを重視したかについては、当該3年間の傾向は同じです。OJIを重視が70%から75%のあいだで、OFF-JTを重視が25%から30%のあいだです。このことからも、日本企業の教育訓練はOJTが中心であることがわかります。時間的にも教育の機会を生み出しやすく、仕事の成果に直結しやすい点からも当然の結果といえます。ただし、Off-JTを軽視しているわけではありません。教育内容によっては、OFF-JTによる方が効果が高いものもあり、後述しますが実際多くの企業が何らかのかたちでOFF-JTを実施しています。
計画的にOJTを実施した事業所割合は、当該3年間ほぼ変わりなく50%代の後半です。2009年度は57.8%です。ただし、企業規模ではかなり差があります。30〜49人規模では37.7%(2009年度)、50〜99人規模では49.5%です。また、企業規模に比例して割合は高くなり、1,000人以上では79.9%と非常に高いです。このことから、企業規模が大きいほど、OJTを計画的に実施するだけの余裕があると考えられます。しかしながら、OJTは仕事通じて上司が部下に直接実施するものであり、計画的に実施できないのは、問題があります。
OFF-JIは社内で実施する場合と、外部・アウトソーシングにより実施する場合がありますが、このうち、どちらを重視したかについては、当該3年間で、前者が54.4%から60.4%に上昇し、後者が45.6%から39.6に低下しました。外部・アウトソーシング重視が低下した理由は2つ考えられます。1つは、外部・アウトソーシングの場合は、費用がかかりますから、景気に左右されて低下した可能性があります。もう1つは、費用に見合った効果がないと判断したかもしれません。
正社員にOFF-JTを実施た事業所割合は当該3年間で、76.6%から67.1%に低下しました。低下はしていますが、依然として高い割合と言えます。この低下はリーマンショックが背景にあると考えることもできるので(ただし、雇用調整期間中の教育訓練可能であった)、2010年度の結果を知りたいところです。能力開発の科目によっては、集合研修の方が効果が得られるので、OFF-JTを実施する必要性は高いと言えます。
自己啓発への支援を行っている事業所割合は、62.2%で当該3年間で低下傾向にあります。2006年度は79.7%ですから、実に17.5%も低下したことになります。とりわけ、リーマンショック後の低下が著しいです。ここでも企業規模で格差があります。支援の内容については、「受講料の金銭的援助」が82.9%と圧倒的に高く、当該3年間でみても安定して高い割合となっています。そして、「教育訓練機関、通信教育に関する情報提供」が45.5%、「社内での自主的な勉強会等に関する援助」が41.2%と続いています。
当該3年間での大きな変化としては、2007年度に2位だった「就業時間の配慮」が翌年から4位に後退し、「社内での自主的な勉強会等に関する援助」が安定的に推移した結果3位となっています。また、「キャリアコンサルティングの実施」については、低調な状況が続いており、導入しない理由の44.3%(2009年)が「当該制度を知らない」とされています。「制度導入のメリットを感じない」とした割合も27.4%と高い状況です。社内外を問わずこの分野の人材不足と周知不足がその理由でしょうか。
能力開発や人材育成に何らかの問題があるとする事業所割合は、当該3年間で低下傾向にあります。ただし、それでも2009年度は67.5%と依然として高い水準にあります。その問題の内容では、「指導する人材が不足している」が48.1%で最も多く、「人材育成を行う時間がない」が46.6%、「人材育成をしても辞めてしまう」が35.8%と続いており、理由の順位に変化はほとんどありません。上位2つの理由から、人事部門の支援が必要なことがわかります。
会社が労働者に求める能力を知らせていると回答した事業所割合は、2009年度は44.4%と前年に比べて8%も低下しました。ある程度知らせていると回答した事業所割合を含めると8割を超えますが、景気に左右されて低下するのは問題があります。一方、社員に対して同じ質問をしたところ、十分に知らされていると回答した割合は23.4%と会社側と大きなギャップがありことが判明しました。早急な改善が求められます。
職業生活設計を考える場を提供している事業所割合は、2007年の67.8%から39.3%(2009年)に大きく低下しました。提供方法として最も多かったのは、「上司との面談」で87.8%と当該3年間で緩やかに増加しました。続いて「自己申告制」、「階層別研修」、「人事部門の担当者との面談」の順となっております。経営環境の悪化が原因で提供している事業所割合が低下したと考えられますが、度を越えて低下しているのは大きな問題です。提供方法の集計からみても、外部資源を活用して行っているわけではないので、機会はつくれるはずだからです。
職業能力評価を行っている事業所割合は、右図のとおり2007年度の60.3%から65.3%(2009年度)へと緩やかに増加しました。企業別にみると企業規模に比例して実施割合が高くなっております。職業能力評価に関しては経営環境に関わらず伸びていることからも、その必要性が認識されているようです。
職業能力評価の活用方法は、下図のとおり「人事考課の判断基準」が88.8%と圧倒的に多く、「人材配置の適性化」、「労働者に必要な能力開発の目標」が続いております。また、「応募してきた人材の能力判断基準(人材の採用)」は29.9%と2007年度に比べて5.5%増加しました。
以上のことから、職業能力評価を人事考課の判断基準として用い、その結果から、労働者ごとに能力開発目標を設定したり、労働者の職業能力を適正に見極め、人員配置を適正化につなげていくことが1つの方向性として考えられます。また、近年の傾向としては、採用時の採否の判断基準のひとつとして活用しつつあるようです。
職業能力評価に関して問題があると回答した事業所割合は、63.4%もあります。企業規模でみるとバラツキがあります。100人以上300人未満の企業が、70.6%、300人以上1,000人未満の企業が72.8%と中規模企業にとりわけ問題があることがわかります。
問題点の内容(複数回答)では、右図のとおり「全部門・職種で公平な評価項目の設定が難しい」が78.2%とダントツで多い結果となりました。予想された結果ではないでしょうか。「評価基準を把握していないため、評価内容にばらつきが見られる」が41.1%でつづいております。
職業ごとに求められる職業能力を業界横断的に整理した職業能力評価基準が作成された場合に、メリットがあると回答した事業所割合は、74.8%と相当な高さです。企業規模別では右グラフのとおりとりわけ中規模事業所で8割を超える結果となっております。前述の職業能力評価に係る取組に最も問題があったのも中規模事業所でしたから、企業規模的にも自力で策定することが困難だと推測できます。
メリットの内容(複数回答)では、労働者の教育訓練の基準として期待されていることがわかります。評価制度をはじめとする人事諸制度への活用も高い割合をしめております。また、求職者の職業能力の効果的な把握も期待度が高いといえます。
(2011.11)